Wish2Reform

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公務員組織における人事評価および業務管理の
改善に関する提言

2026年3月28日

齋藤経史

3つの提言

提言 主な内容
多方向のコメント記録・活用制度 部下から上司へのコメントを含め、職員間で日常業務の行動や成果を随時記録できる仕組みを整備・活用します。
政務三役への相談窓口 大臣政務官チームに相談・調査依頼できる経路を設け、行政ライン内部だけでは動きにくい案件を点検します。
人事評価データの活用 累積した評価、指導履歴、トラブル記録を整理し、役職登用や配置判断に反映できる仕組みを構築します。

1.はじめに

本資料は、公務員組織における人事評価および業務管理に関する制度上の課題を整理し、その改善策を提案するものです。なお、具体的な事例として、 『文部科学省 科学技術・学術政策研究所に関する問題—業務管理および博士人材データベース(JGRAD)の事業中止について—』 を背景材料として参照しています。

国家公務員においては、目標管理を伴う人事評価制度が既に整備されていますが、必ずしも有効に機能しない場合があります。実務の現場では、担当者の業務遂行上の問題、管理職による進捗管理や人員配置の不備、上層部による是正措置の不足などが重なり、組織全体の機能不全に至る場合があります。また、そのような事態が発生しても、現行制度では必ずしも早期に問題が表面化せず、重大な支障や被害が生じるまで是正が遅れることがあります。現行制度の最大の課題は、「問題が発生しても、それが組織内で適切に可視化されにくく、是正につながりづらい構造」にあります。

本資料では、こうした課題を踏まえ、次の三点を中心に改善提案を行います。第一に、部下から上司へのコメントを含めた多方向の情報を随時記録・活用する仕組みを整備することです。第二に、組織や人事に不公正が疑われる場合に、政務三役に相談や調査依頼ができる窓口を整備することです。第三に、累積した人事関連データを適切な権限管理のもとで活用できる基盤を整備することです。

2.本提言の背景にある問題意識

一般に組織においては、担当者個人の能力や誠実性だけでなく、管理職の業務管理能力や組織上層部の監督能力、関係部署間の情報共有の在り方が、組織全体の成果を大きく左右します。しかし、公務員組織の現行制度では、課題を抱える担当者や管理職を早期に把握し、是正することが難しく、適切でない管理職が重要な職にとどまり続けることを防ぎにくい構造があります。

例えば、部下から見て明らかにマネジメント能力や勤労意識に課題のある管理職がいたとしても、現行の国家公務員制度では、原則として部下から上司に対する評価や報告を行う仕組みが十分に整備されていません。上司が更なる上司からのみ評価される場合、上司は上位者の前では体裁を整えることが可能であり、同一の職員であっても、上司の視点と部下の視点とで評価が大きく異なることがあります。

また、組織内で不公正や納得のいかない人事評価が疑われる場合でも、その相談経路が実質的に「更なる上司」に限られていると、相談には強い心理的負担が伴います。特に、課題のある上司と更なる上司が親密な関係にある場合や、上層部が問題を黙認している場合には、相談しても実効的な改善につながらないことがあります。その結果、現場では「報告しても改善につながらない」「相談した側が不利益を受ける可能性がある」といった認識が広がり、組織としての問題の把握と是正が一層困難になります。

さらに、評価制度においても、評価主体が限定されている場合には情報の偏りが生じやすく、十分な評価件数が確保されなければ、評価の妥当性が損なわれる傾向があります。このため、人事評価に関わる情報作成・提出の負担を軽減するとともに、検索性の高いデータとして蓄積・活用できる仕組みを整備することが求められます。

3.現行の評価制度の課題

3-1.評価が原則として上から下のみであること

現行の人事評価制度は、基本的に上司が部下を評価する構造を前提としています。この仕組みは、目標管理や業績把握の面では一定の合理性がありますが、それだけでは組織運営の健全性を十分に担保することはできません。なぜなら、管理職のマネジメント能力や公平性、協働姿勢などは、更なる上司よりも、日常的に業務を共にする部下や同僚の方がより直接的に観察しているためです。

また、評価が上から下への一方向に限定されている場合、現状維持に適応した人物、すなわち旧来の体制に従順で波風を立てない人物ほど有利になりやすいという問題があります。改善提案を行う部下や非効率を指摘する職員よりも、問題を見て見ぬふりをする者の方が不利益を受けにくい構造が生まれるためです。これは、健全な組織文化の形成を阻害する構造であり、是正が必要です。

3-2.管理職の不適格性が見えにくいこと

現行制度では、管理職に期待される役割として、業務の割り振り、進捗把握、問題発生時の対処、関係者間の調整、部下の育成などが挙げられます。しかし、これらの実態は、更なる上司からは間接的にしか把握できず、把握の機会も限られています。業務上の約束を守らない、必要な情報共有を行わない、担当者の業務内容を理解しない、トラブルが発生しても主体的に対応しないといった問題は、日常的な現場での接触を通じて初めて把握されることが多く、上位者からは見えにくい構造となっています。

3-3.相談経路が実質的に閉じていること

現行の人事評価制度においては、「調整者」としての更なる上司への相談経路が形式上は存在しています。しかし、直接の上司の評価に異を唱える形で調整者に相談することには、強い心理的負担が伴います。加えて、相談先が同一の組織文化の中にある場合、問題のある上司や組織慣行に対して厳格な対応をとることが難しい傾向があります。同一省内で長年築かれた人間関係や、将来の人事への配慮が働きやすいためです。その結果、明らかに改善の必要がある問題であっても、「非公式の注意にとどめる」「様子を見る」「公式な処分は難しい」といった対応に終始しがちです。このような状況では、調査、記録、是正勧告、配置の見直しといった中間的な措置が十分に機能せず、問題が組織内で潜在化し、表面化しないまま長期化するおそれがあります。

3-4.評価データが蓄積されても活用されていないこと

人事評価や日常的なトラブルの記録は、組織が同じ問題を繰り返さないための重要な資産であると同時に、職員の優れた貢献や成果を適切に把握し、活用するための基盤でもあります。しかし、現実にはこれらの情報がExcelや個別文書、メール、口頭の記憶などに分散し、体系的に管理・活用されていないことが少なくありません。

その結果、過去にどのような問題があったのか、誰がどの場面でどのようなマネジメント上の弱点を示したのかといった情報だけでなく、誰がどのような場面で優れた成果や貢献を示したのかといった情報についても、人事配置や役職登用に十分反映されないままとなります。これは単なる記録の保存形式の問題ではなく、累積したデータを再発防止と人材の適切な評価・活用の双方に結び付けるという組織的な活用意識が十分に根付いていないことの表れであり、制度的な改善が求められます。

4.改善提案1 多方向のコメント記録・活用制度の構築

4-1.提案の趣旨

第一の提案は、部下から上司へのコメントや同僚間の相互コメントを含め、職員間で日常業務における行動や成果を随時記録・共有できる仕組みを整備することです。ここでいう仕組みは、従来のように半年に一度、目標や評価を提出する形式のものではなく、日常の業務の中で気づいた事項を簡易に記録できる「随時記録型」の情報蓄積制度を想定しています。記録の対象は、不適切な対応や業務上の課題に限らず、優れた成果や貢献、周囲への良い影響といった肯定的な内容も含みます。これらの情報を、共有可能な範囲で組織内に可視化するとともに、必要に応じて人事評価や配置判断に活用できるようにすることを目的としています。

4-2.制度導入の必要性

現行制度においては、管理職の業務運営や日常的な行動に関する情報が、制度的に十分収集・共有されているとは言えません。例えば、十人程度の課に一人の課長が配置されている場合、課長のマネジメントのあり方について最も多くの情報を持っているのは、日常的に業務を共にする課員です。しかし、現行制度では、複数の部下が共通して認識している課題や問題であっても、それを体系的に記録し、人事上意味のある形で蓄積・共有する仕組みがほとんどありません。結果として、現場で把握されている問題が、組織全体として共有されないままになることがあります。

また、管理職本人にとっても、自身の業務運営に関する課題や改善点は、上位者からの評価だけでは十分に把握できない場合があります。自分では十分に説明しているつもりであっても、部下からは説明不足と受け止められていることや、業務の割り振りが公平であると認識していても、実際には偏りが生じていることがあります。このような認識のずれは、日常的な業務接点を持つ部下や同僚からの継続的な情報があって初めて把握されるものです。

さらに、こうした情報が制度的に記録・共有されない場合、問題は個人の不満や印象のレベルにとどまり、組織としての対応につながりにくくなります。その結果、明らかな課題であっても表面化しにくく、改善の機会を逃すことがあります。このような状況を踏まえると、日常的な業務の中で得られる情報を、簡易に記録し、適切に蓄積・活用できる仕組みを整備することが必要と考えられます。

4-3.制度設計の基本的方向

本制度は、従来のような一定期間ごとの評価提出を前提とするものではなく、日常業務の中で気づいた事項を随時記録する仕組みとして設計します。記録は、簡易な入力形式により、短時間で行えることを基本とします。記録の内容は、不適切な対応や業務上の課題に限らず、優れた成果や貢献、周囲への良い影響といった肯定的な事項も含めるものとします。これにより、問題の把握だけでなく、良い実践の共有や適切な評価にも資する情報基盤とします。

また、記録された情報については、その性質に応じて閲覧範囲を適切に設定します。一般的な業務上の気づきや改善提案等は一定範囲で共有し、個人に関わるセンシティブな内容については、管理職や人事担当など限定された権限者のみが確認できる仕組みとします。さらに、記録は単発の情報として扱うのではなく、一定期間にわたって蓄積し、傾向として把握することを基本とします。これにより、偶発的な印象や一時的な不満に左右されず、継続的な行動傾向に基づいた判断が可能となります。

4-4.期待される効果

本制度の導入により、現場で把握されている情報が組織内で可視化されやすくなり、問題の早期把握と是正につながることが期待されます。また、行動や対応が記録され得る環境が形成されることで、不適切な行動の抑止効果も見込まれます。

一方で、本制度は問題の指摘にとどまるものではなく、優れた成果や貢献を可視化する機能も有しています。これにより、従来は見えにくかった良い実践が共有され、組織全体の業務水準の向上にも寄与します。さらに、蓄積された情報を活用することで、人事配置や役職登用において、業務管理能力や協働姿勢を含む実態に基づいた判断が可能となり、不適切な配置が継続されるリスクの低減が期待されます。

5.改善提案2 政務三役への相談・調査依頼窓口の整備

5-1.制度の趣旨

第二の提案は、組織運営や人事に不公正が疑われる場合に、政務三役、とりわけ大臣政務官のチームに対して相談や調査依頼を行うことができる窓口を整備することです。本窓口は、通常の人事評価に対する不満に限らず、組織運営上の不正、不公正、非効率、情報共有の遮断、恣意的な取り扱いなど、行政組織の健全性に関わる事項を対象とします。これにより、行政ライン内部のみでは把握や是正が難しい問題について、別系統からの確認・対応を可能とすることを目的としています。

5-2.行政ライン内部のみでは対応が難しい理由

行政組織においては、同一省内の人間関係や組織文化の影響を受けやすく、問題の処理が行政ライン内部に限定される場合、適切な対応が困難となることがあります。例えば、証拠やルールに照らして厳正な措置が求められる場合であっても、相手が知り合いである、今後も同じ組織で勤務する、過去に関係があるといった事情が心理的な制約として働き、対応が曖昧になったり、事実上の棚上げとなったりすることがあります。また、問題のある管理職や上層部に関する事項ほど、相談経路が実質的に同一系統に限られるため、現場で把握されている問題が上位層に十分伝わらない、あるいは伝わっても実効的な是正につながらない状況が生じやすくなります。

これに対し、政務三役(大臣、副大臣および大臣政務官)は、政治任用された国会議員で構成され、行政実務から一定の距離を持ちながら各省の意思決定に関与する立場にあります。このため、同一組織内ではなれ合いや忖度が働きやすい状況においても、より客観的な観点から問題を確認し、対応を促すことが可能です。このような窓口を設けることにより、行政ラインとは異なる系統から問題を確認することが可能となります。これにより、実際に相談が行われる場合に限らず、管理職や上層部においても、初期対応を適切に行い、問題の早期是正を図る必要性が高まると考えられます。

5-3.窓口の設計および運用の基本

本窓口は、政務三役の直下に直接設けるのではなく、政務官チームを補佐する少人数の専門スタッフが一次的な受付および整理を担う体制とすることが現実的です。受付内容は、個別の処分要求ではなく、あくまで相談および調査依頼を基本とします。相談者は、事実関係、関係者、問題の類型、既に組織内で行った相談の有無などを整理して提出し、窓口側は必要に応じて追加資料の提出やヒアリングを行います。

この窓口は、通常の苦情処理とは異なり、「行政組織の健全性に関する通報・相談窓口」として位置づけることが適切です。これにより、個人的な不満や処遇への不服と、組織運営上の問題とを区別しつつ、ガバナンス上重要な課題を適切に把握することが可能となります。

5-4.期待される効果と抑止機能

本制度の導入により、行政ライン内部のみでは対応が難しい案件について、別系統からの確認および対応を促すことが可能となります。これにより、問題の把握と是正が従来よりも行われやすくなります。また、相談者の立場から見ても、上司の上司に訴えるしかないという閉塞的な状況が緩和され、問題を適切に伝達できる経路が確保されます。

さらに重要なのは、本制度が実際に利用される場合に限らず、管理職や上層部において「行政ライン内部のみで処理すれば外部から見えない」という前提が成立しなくなる点です。これにより、問題の初期段階においても、より丁寧かつ適切な対応を行う必要性が高まり、結果として問題の拡大や長期化を防ぐ抑止効果が期待されます。

6.改善提案3 人事関連データの蓄積・活用基盤の整備

6-1.提案の趣旨

第三の提案は、人事評価データ、トラブル記録、指導履歴などの人事関連データを、適切な権限管理のもとで蓄積し、参照・活用できる基盤を整備することです。本制度の目的は、個々の出来事を単発のものとして処理するのではなく、継続的な傾向として把握し、人事配置や役職登用に反映できるようにすることにあります。あわせて、過去の課題だけでなく、優れた成果や貢献についても適切に把握し、人材の有効活用につなげることを目指します。

6-2.現行制度における課題

現行の人事評価は、Excelベースや個別ファイルベースで運用されることが多く、可読性や検索性、一括処理の面でも限界があります。また、自由記述欄や面談記録、トラブルに関するメモ、ヒアリング記録などは形式が統一されていないことが多く、後から振り返る際に多大な労力を要します。このような状態では、過去に同種の問題があった人物が、部署を変えただけで再び同様の問題を生じさせることを防ぎにくくなります。また、役職登用や配置判断においても、蓄積された情報が十分に参照されず、直近の印象や限定的な情報に依存した判断が行われやすくなります。さらに、優れた成果や貢献に関する情報についても体系的に蓄積・参照されにくく、適切な評価や人材配置に十分活用されていないという課題があります。

6-3.データ基盤整備の基本的方向

本制度の実現にあたっては、人事関連データを一定のフォーマットで蓄積し、横断的に参照できる基盤を整備することが必要です。年度評価、面談記録、指導・注意の履歴、ハラスメントや業務管理に関する調査記録などを、適切なアクセス制御のもとで一元的に管理できる仕組みが求められます。

また、人事に関わる課題の多くは数値情報だけでは把握できないため、自由記述や会話記録、音声記録の書き起こしなどのテキスト情報を適切に活用することが重要です。どのような場面で、どのような問題や成果が生じたのかを文脈とともに把握できるようにする必要があります。

6-4.人工知能(AI)を活用した分析・補助機能

大量に蓄積される人事関連データを効率的に活用するためには、人工知能(AI)を補助的に活用することが有効です。その際、取り扱う情報の性質を踏まえ、入力データが外部の学習に利用されない設定や、適切なアクセス管理のもとで運用することが重要です。

本制度におけるAIの役割は、人事判断を代替するものではなく、記録の要約、論点整理、類似事案の抽出、継続的な傾向の把握といった分析を補助することにあります。例えば、過去数年間の評価記録や自由記述を横断的に整理し、「進捗管理に課題がある」「情報共有が遅れがちである」「対人対応に偏りが見られる」といった傾向を抽出することで、人事担当者や上位管理職の判断を支援することが可能となります。

また、音声記録や長文の面談記録などについても、AIによる一次的な整理を行うことで、確認すべき論点を効率的に把握することができます。これにより、人手による確認作業の負担を軽減しつつ、重要な情報の見落としを防ぐことが期待されます。なお、最終的な判断は必ず人間が行うことを前提とし、AIの出力についても、その妥当性や偏りを点検する運用を確保することが求められます。

6-5.期待される効果

本制度により、人事関連データを継続的に蓄積・活用する基盤が整うことで、過去のトラブルや課題を踏まえた慎重な人事配置が可能となります。例えば、対人マネジメントに継続的な課題が見られる人物については、十分な支援や適切な配置を前提とした人事判断を行いやすくなります。

一方で、優れた成果や貢献に関する情報についても体系的に把握されることにより、専門性の高い業務や個別対応に適性を持つ職員について、その能力を十分に発揮できる配置を検討しやすくなります。さらに、蓄積された情報を踏まえて人事判断を行うことで、短期的な印象や断片的な情報に依存した判断を避けることが可能となり、組織全体としての意思決定の質の向上が期待されます。これらは、組織の健全性の確保と業務運営の安定化に寄与するだけでなく、職員一人ひとりにとっても、より適切な評価と配置につながります。

7.おわりに

本資料で提案した三つの改革、すなわち多方向のコメント記録・活用制度の構築、政務三役による相談・調査機能の整備、人事関連データの蓄積・活用基盤の整備は、いずれも現行制度の弱点を補うためのものです。 『文部科学省 科学技術・学術政策研究所に関する問題—業務管理および博士人材データベース(JGRAD)の事業中止について—』 に示された事例では、担当者、管理職、上層部の各段階における問題が重なりながら、十分な是正がなされないまま組織運営上の支障が拡大していった状況がありました。そこから得られる教訓は、特定の人物の資質の問題にとどまらず、問題を早期に把握し、組織内外で適切に共有し、是正につなげるための制度が十分に機能していなかったという点にあります。

公務員制度の信頼性は、個々の職員の善意のみに依存するものではなく、問題の把握、是正、記録、再発防止が制度として組み込まれていることによって担保されるべきものです。本提言は、そのための出発点として、日常業務における情報の可視化、行政ライン外からの確認機能、データに基づく人事判断という三つの方向性を示すものです。今後、各府省において実務に即した制度設計と試行導入が進み、公務組織の健全性と説明責任が一層高まることを期待します。