科学技術・学術政策研究所に関する問題の検証とその後の経過
―2026年8月14日公表資料 [2]刑事告発および文部科学省 大臣官房への公益通報に関する経過―
2026年8月14日 齋藤経史(kei@jsaito.jp)
[2]刑事告発および文部科学省 大臣官房への公益通報に関する経過
[2-1]本パートの構成
[1-2]で示したように、私は科学技術・学術政策研究所において生じた問題について、2026年3月に東京地方検察庁へ刑事告発状を提出し、3月28日にWish2Reformによる情報発信を開始しました。本パートでは、刑事告発状を作成・提出するに至った考え方、その後に東京地方検察庁から返却されるまでの経過、さらに刑事告発状の再提出をいったん保留することとした理由を整理します。
刑事告発状は2026年4月に東京地方検察庁から再提出を促される形で返却され、その後、法律実務家とも相談しながら再提出を検討しています。一方、文部科学省 大臣官房への公益通報について、省改革推進・コンプライアンス室が内部公益通報として取り扱う方向を示したため、私は文部科学省による調査とその結果を確認した上で、刑事告発状の再提出について改めて判断することとしました。
なお、本パートでは刑事告発状の再提出を保留する判断に関係する文部科学省 大臣官房への公益通報に関する初期の経過を扱います。内部公益通報としての正式受理、その後の調査、2026年8月5日の調査結果通知および調査終了後の確認については、[5]で詳しく整理します。
以下、[2-2]では刑事告発状の作成に至った経緯と作成当時から認識していた懸念点、[2-3]ではWish2Reformの公開から刑事告発状の返却までの経過、[2-4]では刑事告発状の再提出を保留している理由を説明します。
[2-2]刑事告発状の作成に至った経緯と作成当時から認識していた懸念点
[1-2]で示したように、2026年2月中旬、私は科学技術・学術政策研究所が、JGRAD参加大学や事業への貢献者に対して十分な説明や調整を行わないまま、博士人材データベース(JGRAD)事業を急遽終了する方針であることを把握しました。それ以前から、川村上席の勤務実態や報告書公刊遅延、橋本総括の業務管理、塩崎所長を含む研究所上層部の対応に問題があると考えていましたが、JGRAD事業の終了方針を把握したことを契機として、これらの問題について刑事責任が生じる可能性を具体的に検討することとしました。そこで、関連する経緯と証拠となり得る資料を整理して刑事告発状を作成し、2026年3月13日に東京地方検察庁へ送付しました。
刑事告発状の作成に当たり、参考にした一方で、本件との比較を通じて立証上の懸念も抱いた事例として、2025年12月に報道された奈良県保健研究センターの事案が挙げられます。この事案では研究員が申請した計53回の在宅勤務のうち52回に勤務実態がなかったとして、停職6カ月の懲戒処分を受けました。加えて、奈良県は、勤務していなかった分の給与の返還を求める方針も示しました。情報提供を受けた奈良県人事課がアウトドア施設で現地確認を行ったところ、研究員が現れ、在宅勤務の申請日に同施設を利用していたことを認めたという事案でした。一方、保健研究センター側では、業務全体に支障がなかったため、勤務実態がなかったことを把握できなかったと報道されています。(https://gyo.tc/https://www.asahi.com/articles/ASTDT2TFLTDTPOMB00ZM.html)
奈良県保健研究センターの研究員の事案と外形的な状況を比較すると、科学技術・学術政策研究所の川村上席の事案の方がより重大な問題を含む可能性があると考えられました。橋本総括が着任した2024年8月から2026年3月末までの暦上の勤務日は約400日であり、川村上席はその9割以上の日をテレワーク勤務としていました。このため、概算で360日以上がテレワーク申告日に当たります。私は、これらのテレワーク申告日の相当部分に勤務実態がなかった可能性があると考えました。また、奈良県保健研究センターの事案では、業務全体に支障がなかったため、所属組織では勤務実態がなかったことを把握できなかったと報道されています。一方、科学技術・学術政策研究所の事案では、私が橋本総括に対して川村上席の報告書公刊遅延を防止するための対策を繰り返し促したにもかかわらず、その対策は実施されませんでした。さらに、その状況を塩崎所長に報告した後も、実効的な是正は行われなかったと考えています。テレワーク申告日が奈良県保健研究センターの事案よりも大幅に多い点と、明らかな業務遅延が指摘された後も組織として実効的な対応が行われなかった点の双方から、科学技術・学術政策研究所の事案の方が、より重大な問題を含むと考えられました。
一方で、奈良県保健研究センターの事案からは、別の懸念も浮かび上がります。この事案では、奈良県人事課がアウトドア施設で現地確認を行ったところ研究員が現れ、本人も在宅勤務の申請日に同施設を利用していたことを認めました。すなわち、勤務実態がなかったことを裏づける直接的な現地確認があり、本人も在宅勤務申請日に施設を利用し、職務を怠った時間があったことを認めた事案でした。これに対し、川村上席の事案では、同様の直接的な現地確認を行うことや本人が不就労の事実を認めることは期待できません。また、奈良県保健研究センターの事案のように、計53回の在宅勤務のうち52回という形で、不就労日を日単位で特定し、計上することも極めて困難です。加えて、ある日にごく短時間でも業務に従事していた場合、その日全体を不就労日として認定・計上できるのかという問題もあります。
私は、科学技術・学術政策研究所の川村上席の事案は、奈良県保健研究センターの研究員の事案と比べて、より重大な問題を含む可能性があると考えていました。一方、勤務実態を直接示す物証や本人による不就労の自認を得ることは難しいとも認識していました。そのため、実際に川村上席の不就労疑惑を刑事事件として立件することや懲戒処分の対象として不就労日数を含めて認定することは困難であると考えていました。
私が、川村上席のテレワーク申告日における不就労よりも相対的に立証可能性が高いと考えていたのは、橋本総括の業務管理不全でした。川村上席がテレワーク申告日に実際にどの程度、科学技術・学術政策研究所の業務に従事していたかとは独立して、テレワーク勤務が常態化し、具体的な理由が示されないまま報告書の公刊が大幅に遅延していたことは、電子記録等から確認できます。また、私を含む複数の職員は、報告書の公刊予定が大幅に遅延していたことから、川村上席がテレワーク勤務として申請した時間の相当部分で科学技術・学術政策研究所の業務を行っていない可能性があると、橋本総括に指摘していました。それにもかかわらず、橋本総括は必要な勤務実態の確認や進捗管理を行わず、川村上席の業務管理を実質的に放棄し続けていました。こうした対応は管理職として負うべき職務上の責任に背くものであると考えました。
このような懸念点を検討し、立件の可能性は必ずしも高くないとも考えましたが、整理した証拠資料を添えて、刑事告発状を東京地方検察庁に提出しました。提出に踏み切った第一の理由は、東京地方検察庁が本件に関心を持ち、捜査や立件の要否を検討する可能性があると考えたためです。第二の理由は、私がその後に公益通報として広く情報発信する場合に、刑事告発状を提出して公的な手続による事実確認を求めたことが、私の対応方針と整合すると考えたためです。
公益通報者保護法上の通報対象事実に当たるためには、単なる職務怠慢や公務員倫理上の問題だけでは不十分であり、通報の対象となる事実が法令上の犯罪行為等に該当する必要があります。また、公益通報には、勤務先等の内部に行う第1号通報、通報対象事実について処分・勧告等の権限を有する行政機関に行う第2号通報、報道機関等、被害の発生や拡大を防止するために必要と認められる外部の者に行う第3号通報があります。私は、Wish2Reformでの情報発信を公益通報(第3号通報)に当たり得るものと位置付ける以上、対象となる行為が犯罪行為に該当する可能性が高いと自ら認識していなければ、発信の位置づけと私自身の認識との間に不整合が生じると考えました。また、広く情報発信を行う時点で既に刑事告発を行っていることは、発信内容の重大性を示し、社会的関心を喚起する要素になると考えました。
3月13日に送付した刑事告発状が、Wish2Reformで本件について発信した3月28日の時点でも返送されていなかったことから、受理されているか、少なくとも内容の検討が行われている可能性があると考えていました。こうした背景から、3月28日のWish2Reformでの発信では、本件について東京地方検察庁へ刑事告発状を提出済みであることを記載し、YouTube動画でも説明しました。
[2-3]Wish2Reformの公開から刑事告発状の返却までの経過
3月28日にWish2Reformで本件に関する情報を公開し、YouTubeやXでも発信しました。これらの発信には一定の反響がありました。とりわけ、十分な説明や調整を行わないまま博士人材データベース(JGRAD)事業が急遽終了した経緯については、博士課程学生や博士課程修了者の間にも、ある程度情報が伝わったと考えています。また、前参議院議員の浜田聡氏からは、Wish2Reformについて、単なる問題の暴露ではなく、研究所の業務改善・改革を促す目的を持った情報発信であるとの趣旨で、X上で紹介されました。これに対して私は、公務員組織全体の業務改善・改革を促すことが目的であり、公務員の人事評価制度や組織風土の改善につなげたい旨を返信しました。
YouTubeやXといったSNSでは一定の反響があった一方、Wish2Reformや私の発信が大手メディアで取り上げられることはありませんでした。全国紙の記者と話したところ、私が実名と顔を公表し、関係者とのやり取りについて具体的な日時やイニシャルを含めて説明していることから、発信内容には高い信憑性があるとの見解でした。また、SNS上の反応を見る限り、私が発信した基礎的な事実が誤っているとの指摘は見られないとのことでした。一方、大手メディアが問題を取り上げるためには、第三者から見ても明確な証拠があるか、対立する双方への取材によって事実関係の裏付けが得られることが必要であるとの説明も受けました。本件に関して科学技術・学術政策研究所側が沈黙し、取材を行っても回答が得られない場合には、双方への確認による裏付けができないため、Wish2Reformの発信を大手メディアが取り上げることは難しいとの見解でした。
Wish2Reformでの発信から2日後の2026年3月30日、私は、文部科学省 大臣官房 省改革推進・コンプライアンス室(公益通報窓口)に対し、本件について公益通報としてメール連絡を行うことにしました。(https://www.mext.go.jp/kouekitsuuhou/1288845.htm)科学技術・学術政策研究所は、文部科学省直轄の国立試験研究機関であり、文部科学省本省と同じ庁舎内に置かれています。このため、科学技術・学術政策研究所に関する文部科学省への通報が、勤務先等の内部に行う第1号通報に当たるのか、処分・勧告等の権限を有する行政機関に行う第2号通報に当たるのか、私には明確に判断できませんでした。また、私は2025年9月26日に塩崎所長らに対し、証拠資料を添えて橋本総括および川村上席に関する深刻な問題を指摘し、是正を求めるメールを送付していました。このメールが、実質的には第1号通報に相当するとの考えもありました。第1号通報と第2号通報のいずれに当たるとしても、文部科学省 大臣官房 省改革推進・コンプライアンス室が公益通報窓口として公表しているメールアドレスに連絡すれば、通報の位置づけを適切に判断し、対応を行うものと考えました。そこで、3月30日午前10時4分、通報書を添付したメールを公益通報窓口へ送付しました。
送付したメールでは、科学技術・学術政策研究所における勤務管理、承認手続および組織的対応に重大な疑義があるとして、事実確認、証拠の保全および必要な調査を求めました。また、東京地方検察庁に提出した証拠ファイル一式を文部科学省にも提供できることを伝え、客員研究官としての任期が3月31日に終了する前に提出したいとして、早期の回答を求めました。
しかし、3月31日までに文部科学省 大臣官房 省改革推進・コンプライアンス室から私への連絡はありませんでした。私は特に落胆せず、この対応も想定の範囲内であると受け止めていました。2025年9月26日に塩崎所長らに対し、橋本総括および川村上席に関する深刻な問題を指摘し、是正を求めるメールを送付した際にも、迅速かつ実効的な対応はとられませんでした。また、それ以外にも文部科学省 大臣官房への問い合わせに関して緩慢で真剣さを欠く対応を経験していたことから、特に職階の高い職員が関係する問題については、誠実かつ迅速に対応されない可能性が高いと認識していました。もっとも、私が3月13日に東京地方検察庁に刑事告発状を送付し、3月28日にWish2Reformで情報発信を行った事実を公益通報窓口が把握した後であれば、事態の深刻さを認識し、誠実かつ迅速に対応する可能性もあると期待していました。しかし、実際には、私が期待したような迅速な対応は見られませんでした。
Wish2Reformで発信した4日後の4月1日、外出先から帰宅すると、東京地方検察庁から書留郵便が届いている旨の不在票が入っていました。しかし、私は郵便局へ受け取りに行くことも、再配達を依頼することもせず、保管期限内には受領せずに東京地方検察庁へ返送されるに任せました。その時点で、封書の内容として考えられたのは、「A:受理した旨の通知」「B:証拠の不備等を理由とする再提出の依頼」「C:今後も受理しない旨を示す通知」のいずれかでした。AまたはBであれば、直ちに受領しても当時の対応に大きな違いは生じないと考えました。一方、Cであった場合、メディアから取材を受ける可能性が残っていた中で「東京地方検察庁には適切に処理してほしい」と話すことが難しくなると考えました。そうなれば、発信内容の重大性を示して社会的関心を喚起することがより難しくなることに加え、公益通報窓口から今後何らかの連絡があると見込まれる中、その対応をさらに弛緩させかねないと考えました。このため、保管期限内には受領せず、東京地方検察庁へ返送されるに任せました。
私が3月30日に文部科学省 大臣官房へメールで送付した公益通報に対しては、8日後の4月7日に初めて返信がありました。回答は、「(第2号)公益通報については、文部科学省が処分または勧告等を行う権限を有する事業者に関する通報のみを受け付けている。文部科学省には科学技術・学術政策研究所の職員を処分する権限がないため、本件は(第2号)公益通報の対象とはならない」という趣旨でした。私は翌4月8日に、第1号公益通報として取り扱わない理由を照会しました。その後のやり取りを経て、4月14日に内部公益通報窓口のメールアドレスが示されました。私は同日、3月30日付の通報書を改めて送付しました。これらの文部科学省 大臣官房への公益通報をめぐる経過については、[5]で詳しく説明します。
この文部科学省とのやり取りが続いていた4月15日、東京地方検察庁から書留郵便が再送付されました。この時点では、追加的にメディアから取材を受ける可能性がほぼなくなっていたことに加え、文部科学省 大臣官房 省改革推進・コンプライアンス室が、本件を第1号公益通報として取り扱う方向を示していました。このため、再送付された書留郵便を受け取りました。
4月15日に受領した書留郵便の内容は、当初想定した3つの可能性のうち「B:証拠の不備等を理由とする再提出の依頼」に当たるものでした。書面には、「告発事実が特定されているとはいえません」や「弁護士等の法律実務家に相談されることも御検討願います」との記載がありました。これらは定型的な記載である可能性もありますが、少なくとも再提出を拒否する文面ではありませんでした。私は法律実務家とも相談し、添付資料や書面の改訂を含めて再提出を検討することとしました。
[2-4]刑事告発状の再提出を保留している理由
私は再提出に必要な書面や証拠資料のまとめ方について法律実務家に相談する一方、直ちに東京地方検察庁へ刑事告発状を再提出する必要はないとも考えていました。私の主たる目的は、告発対象とした3名が立件され、刑事罰を科されることではありませんでした。犯罪に該当する可能性があり、刑事告発を検討すべきほどの不誠実な対応や怠慢があったことを示すことで、発信内容の重大性を伝え、社会的関心を喚起することにありました。また、当事者ではない第三者による調査や評価を通じて、著しい怠慢や不適切な業務管理の有無を明らかにすることも目的としていました。
刑事告発を行った時点で、その第三者として私が想定していたのは検察であり、さらに起訴に至った場合には裁判所でした。しかし、4月に入って文部科学省 大臣官房 省改革推進・コンプライアンス室が本件を第1号公益通報として取り扱う方向を示したことで、状況が変化しました。ただし、私は省改革推進・コンプライアンス室が独立した第三者としての役割を果たすことを期待したわけではありません。科学技術・学術政策研究所は文部科学省直轄の研究機関であり、所長を含む幹部人事は文部科学省本省の人事として行われるため、実質的に一体の組織であると見なすことができます。私は、省改革推進・コンプライアンス室による公益通報への対応を記録することによって、橋本総括や塩崎所長の対応にも表れていた職階の低い職員からの批判や指摘に対しては、形式的な対応にとどめればよい、あるいは黙殺すればよいという姿勢が生じる組織的な背景を示すことができると考えました。その対応を詳細に記録し、Wish2Reformを通じて広く発信することで、組織外の第三者である国民にこの問題を理解し、評価してもらうことが重要であると考えました。
このため私は、文部科学省 大臣官房による公益通報への対応と調査の結果が明らかになるまでは、東京地方検察庁への刑事告発状の再提出をいったん保留することとしました。