科学技術・学術政策研究所に関する問題の検証とその後の経過
―2026年8月14日公表資料 [3]科学技術・学術政策研究所の博士人材追跡調査に関する経過―
2026年8月14日 齋藤経史(kei@jsaito.jp)
[3]科学技術・学術政策研究所の博士人材追跡調査に関する経過
[3-1]本パートの概要
2026年3月28日のWish2Reformによる情報発信後、科学技術・学術政策研究所は、2022年度に実施した博士人材追跡調査に基づく報告書を公刊しないまま、2023年度に実施した調査結果に基づく報告書を「博士人材追跡調査-第5次報告書-」(調査資料356)として2026年5月29日に公刊しました。しかし、この調査資料356には複数の誤記や記載上の不整合が確認され、公刊後に正誤表が公開されました。さらに、公開されている正誤表と第1版・第2版を照合すると、正誤表に修正が示されていない「サイレント修正」に加え、正誤表に記載された内容とは異なる修正も確認できます。また、科学技術・学術政策研究所は、2022年度に実施した調査に基づく報告書が未公刊である理由を示さないまま、2026年度の博士人材追跡調査を外部委託により実施するための手続きを進めています。
以下、[3-2]では、2026年3月28日にWish2Reformで公開した文書における博士人材追跡調査に関する指摘を改めて確認します。[3-3]では、2022年度調査に基づく報告書の公刊をスキップし、2023年度調査に基づく調査資料356が公刊された経過を示します。[3-4]では、調査資料356の正誤表と実際の修正内容を比較し、サイレント修正および正誤表の記載とは異なる修正について説明します。[3-5]では、2026年度の博士人材追跡調査の外部委託による実施について、公表資料に基づいて説明し、今後の調査実施体制に関する課題を示します。
[3-2]3月28日の公開文書における博士人材追跡調査(JD-Pro)に関する指摘
[1-2]で示したように、2026年3月28日にWish2Reformで公開した文書では、川村上席の恒常的なテレワーク勤務、勤務実態の不透明さ、報告書公刊の反復した遅延に加え、橋本総括による勤務実態の確認や進捗管理が十分に行われていなかったこと、さらに問題が塩崎所長に共有された後も実効的な改善措置が講じられなかったことを指摘しました。これらを踏まえ、川村上席個人の勤務や報告書公刊の問題にとどまらず、科学技術・学術政策研究所の業務管理およびガバナンスにも深刻な問題があると論じました。
この公開文書において大幅な公刊遅延を指摘した対象は、「博士人材追跡調査-第5次-」と題する報告書です。(https://wish.to/reform/issue/i4k.html)この報告書が集計・分析の対象とする予定であったのは、科学技術・学術政策研究所が『「2022年度博士人材追跡調査」の実施について(ご回答のお願い)』としてウェブサイト上で実施を案内した調査により収集されたデータです。(https://www.nistep.go.jp/archives/53315/)ウェブサイト上の実施案内が示す通り、この調査は2022年11月7日から同年12月9日までを調査期間として、2012年度、2015年度、2018年度の博士課程修了者に対して、それぞれ修了9.5年後、修了6.5年後、修了3.5年後の状況を尋ねたものでした。私が2026年3月28日にWish2Reformに公開した文書では、勤務実態が不透明なテレワークおよび反復した報告書公刊遅延により、「2022年度博士人材追跡調査」を集計・分析対象とする「博士人材追跡調査-第5次-」が、調査実施から3年以上が経過しても未公刊となっていることを問題の一つとして指摘していました。
[3-3]2022年度調査の公刊スキップと2023年度調査(調査資料356)の公刊
2026年3月28日のWish2Reformでの公開から約2か月後となる2026年5月29日、科学技術・学術政策研究所は調査資料356として「博士人材追跡調査-第5次報告書-」を公刊しました。(https://www.nistep.go.jp/archives/62942/)ただし、この調査資料356が集計・分析の対象としたデータは「2022年度博士人材追跡調査」ではなく「2023年度博士人材追跡調査」でした。「2023年度博士人材追跡調査」は、2023年11月17日から2024年1月12日までを調査期間として、2021年度の博士課程修了者に対して修了1.5年後の状況を尋ねたものでした。(https://www.nistep.go.jp/archives/56566/)
博士人材追跡調査は、同じ調査対象者の状況を一定期間後に繰り返し把握することによって、博士課程修了後のキャリアの変化を確認できることに意義があります。とりわけ、2022年度調査は、修了3.5年後、修了6.5年後および修了9.5年後という中長期の状況を把握する調査でした。このため、より後の時点に実施された修了1.5年後の状況に関する報告書が公刊されても、2022年度の調査結果が持つ情報の重要性は失われません。また、2022年度調査の結果が公表されなければ、調査回答者の協力や調査実施に投入された公的資金に見合う成果を社会に還元できず、調査協力者および納税者に対する責任を果たしていないことになります。
なお、2026年3月28日のWish2Reformでの公開時点では私自身も認識できていませんでしたが、その後に確認したところ、同年3月12日に科学技術・学術政策研究所が開催した第17回政策研究レビューセミナーの発表資料に、第5次報告書の集計・分析の対象となるデータが示されていることが分かりました。(https://www.nistep.go.jp/archives/62232/)このレビューセミナーにおいて発表を行った橋本総括は、博士人材追跡調査の第5次報告書が、2021年度博士課程修了者の修了1.5年後の状況を把握した2023年度博士人材追跡調査に基づくことを説明しています。また、実際の公刊は2026年5月29日となりましたが、発表資料では博士人材追跡調査の概要を示すスライドに、第5次報告書について「2026年3月公表」と記載されています。このことから、遅くとも橋本総括が在任していた2026年3月には、修了3.5年後、6.5年後、9.5年後を対象とした2022年度調査ではなく、修了1.5年後を対象とした2023年度調査に基づいて「博士人材追跡調査-第5次報告書-」を公刊する方針であったことが分かります。この発表の中で、橋本総括自身が「コホートの3.5年後、6.5年後の状況の変化を見ていくことが重要」と説明しています。(https://youtu.be/UgOdw2338Ac?si=9W8N9PDa300xgJei&t=922)この橋本総括による説明と、まさに3.5年後、6.5年後を調査した2022年度調査の公刊がスキップされたこととの間には、皮肉ともいえる齟齬があります。
科学技術・学術政策研究所のウェブサイトには、2022年度調査に基づく報告書が未公刊のまま、2023年度調査に基づく報告書を先に公刊した理由についての説明はありません。また、2026年8月14日現在、2022年度調査に基づく報告書の公刊を取りやめたのか、今後公刊する予定があるのか、取りやめた場合にはどのような理由によるものかについても、公表された説明を確認することはできません。科学技術・学術政策研究所は、2022年度調査に基づく報告書が未公刊となっている理由を説明しないまま、2023年度調査に基づく調査資料356を公刊しており、2022年度調査は公刊スキップの状態にあると考えられます。
[3-4]2023年度調査(調査資料356)の正誤表公開とサイレント修正
調査資料356として公刊された2023年度調査に基づく「博士人材追跡調査-第5次報告書-」については、公刊後に行われた訂正と、その内容の公表方法にも問題があります。公刊後間もなく、複数の誤記や記載上の不整合を訂正する正誤表が公開され、科学技術・学術政策研究所ライブラリ上の資料も第2版に更新されました。しかし、第2版には、正誤表に修正が示されていないサイレント修正があるほか、修正が不十分な箇所、未修正のまま残された箇所、さらに第2版への変更によって新たに問題が生じた箇所も確認されます。このため、公開されている正誤表だけでは、第1版から第2版へ実際に何がどのように変更されたのかを正確かつ網羅的に把握できず、第2版においても残る問題の全体像を確認することができません。
まず、調査資料356の第5次報告書では、正誤表の存在や報告書が改訂された事実そのものも、科学技術・学術政策研究所のウェブサイトを閲覧しただけでは把握しにくい状態になっています。2022年1月に公刊された調査資料317の第4次報告書についても、報告書の改訂および正誤表の公開をめぐるトラブルがありました。(https://wish.to/reform/issue/i4b.html)ただし、この時に公開された正誤表は科学技術・学術政策研究所の公表案内ページに「正誤表」および「正誤表(English)」へのリンクが直接掲載され、比較的分かりやすいものとなっていました。(https://www.nistep.go.jp/archives/50303/)これに対し、調査資料356の公表案内ページには、正誤表の公開や報告書の改訂についての記載がなく、改訂された事実自体を把握しにくくなっています。(https://www.nistep.go.jp/archives/62942/)正誤表は、調査資料356の公表案内ページからリンクされた科学技術・学術政策研究所ライブラリのファイル一覧に「正誤表(311 KB)」として掲載され、同じページの「Versions」欄に「Ver.1」と「Ver.2」が表示されているにとどまります。(https://nistep.repo.nii.ac.jp/records/2000295)このため、ウェブ閲覧者は、ライブラリのファイル一覧まで進まなければ、報告書が改訂された事実や正誤表の存在に気づきにくい状態となっています。
2026年8月14日時点で科学技術・学術政策研究所ライブラリで公開されている正誤表には、概要および本編の複数箇所について、修正日が一律に「2026/7/15」と記載されています。(https://nistep.repo.nii.ac.jp/record/2000295/files/NISTEP-RM356-errata.pdf)正誤表には、有効回答数、調査実施年、年齢構成、図表中の数値等に関する訂正がまとめられています。この正誤表だけを見ると、掲載された訂正がすべて2026年7月15日に行われたように見えます。しかし、2026年7月4日18時41分に保存したウェブ魚拓では、同じURLで公開されていた正誤表の修正日は「2026/6/19」となっていました。(https://gyo.tc/https://nistep.repo.nii.ac.jp/record/2000295/files/NISTEP-RM356-errata.pdf)
公開中の正誤表では「参2」の「令和3年3月」を「令和4年3月」に改める訂正が追加される一方、それ以前からの正誤表に掲載されていた訂正についても、修正日が「2026/6/19」から「2026/7/15」へ一括して変更されています。すなわち、6月19日の訂正内容を残した上で7月15日の追加訂正を追記したのではなく、正誤表全体を差し替え、すべての修正を7月15日に行ったように見える形へ変更したことになります。なお、公開中の正誤表については、ウェブ魚拓の記録を確認するまでもなく、科学技術・学術政策研究所ライブラリ上の記載だけでも不整合を確認できます。Ver.2のファイル群には、更新日時として2026年6月19日を示す「2026-06-19 07:56:30.419796」が記載されています。すなわち、6月19日に更新されたVer.2のファイル群に対する正誤表に、7月15日の修正日が記載されている状態となっています。
正誤表を正確に作成し、その内容を広く周知することは、調査研究の成果の信頼性を支える上で重要です。加えて、科学技術・学術政策研究所は文部科学省直轄の政府機関でもあり、成果の信頼性と公文書管理の双方の観点から、訂正履歴を正確に残すことが重要です。この正誤表の差し替えにより、現在公開されている正誤表だけからは、6月19日に一度訂正が行われ、その後7月15日に追加の訂正または正誤表自体の改訂が行われたという経過を確認できません。このような状態では、第三者が訂正の経過を後から検証することができず、正誤表が本来果たすべき記録機能を果たしているとはいえません。
さらに、科学技術・学術政策研究所ライブラリに残されている第1版(Ver.1)、第2版(Ver.2)およびNISTEP正誤表(7月15日版)を相互に照合したところ、公開ファイル・記載箇所単位で80項目の誤り、不整合または修正上の問題を確認しました。これらには、正誤表に対応する修正だけでなく、正誤表に掲載されていないサイレント修正、Ver.2で修正が不十分な箇所、Ver.2でも未修正の箇所、さらにVer.2への変更によって新たに生じた問題が含まれます。確認結果の詳細は、「NISTEP調査資料356『博士人材追跡調査-第5次報告書-』の包括的正誤表」(https://wish.to/reform/next01/rm356_true_errata_table.xlsx)に掲載しています。また、包括的正誤表の内容を把握しやすいよう、照合結果の概要、分類基準、全体集計および代表的な事例をまとめた「NISTEP調査資料356『博士人材追跡調査-第5次報告書-』の包括的正誤表に関する解説資料」(https://wish.to/reform/next01/rm356_true_errata_guide.pdf)も公開しています。
これらの資料が示す重要な点は、調査資料356の問題が、NISTEP正誤表(7月15日版)に掲載された訂正だけでは把握できないことです。確認した80項目の内訳は、正誤表に対応する修正が16項目である一方、正誤表に掲載されていないサイレント修正が26項目、Ver.2で修正が不十分なものが6項目、Ver.2でも未修正のものが31項目、Ver.2への変更によって新たに生じたものが1項目でした。すなわち、NISTEP正誤表(7月15日版)だけを参照しても、Ver.1からVer.2への変更内容を正確かつ網羅的に確認することはできず、最新版であるVer.2にも、読者の理解や調査結果の解釈に影響する誤りや不整合が残されています。このため、科学技術・学術政策研究所には、サイレント修正、修正不十分、未修正および新たに生じた問題を含めた包括的な正誤表を改めて公表するとともに、報告書の公刊前後における実効性のある確認体制を整備することが求められます。
[3-5]2026年度博士人材追跡調査の外部委託実施
川村上席が主担当者として外部委託により実施した大規模調査のうち「2022年度博士人材追跡調査」に加えて「修士課程等在籍者調査(2024年度修了予定者実績)」および「ポストドクター等の雇用・進路に関する調査(2024年度実績)」についても、調査実施後の報告書がまだ公刊されていません。2026年7月31日に公表された科学技術・学術政策研究所の2025年度活動報告(年報)によれば、後者2件の調査結果は、いずれも2026年度中に調査資料として公表予定となっています。(https://www.nistep.go.jp/archives/63890/)
「修士課程等在籍者調査(2024年度修了予定者実績)」は、2024年度に修士課程及び6年制課程を修了又は修了予定の学生本人を対象として、2024年11月1日から2025年1月31日までを調査期間として実施されたものです。(https://www.nistep.go.jp/archives/59272/)2025年度年報によれば、「修士課程等在籍者調査(2024年度修了予定者実績)」の報告書は2026年度中に調査資料として公表される予定とされています。一方、「ポストドクター等の雇用・進路に関する調査(2024年度実績)」は、2024年度全体における大学・公的研究機関等のポストドクターの雇用及び進路実績を各機関に尋ねる政府統計として、翌2025年度に調査が実施されました。(https://www.nistep.go.jp/archives/61650/)2025年度年報においては、「ポストドクター等の雇用・進路に関する調査(2024年度実績)」に関しても2026年度中に分析結果を政府統計ポータルサイトe-Stat及び調査資料として公表予定となっています。
ただし、過去の公表予定と実際の公刊時期を踏まえると、川村上席が主担当となっている2件の報告書が2025年度年報に記載された予定どおり2026年度中に公刊されるかについては、慎重に考える必要があります。科学技術・学術政策研究所の2023年度の年報においては、博士人材追跡調査(JD-Pro)に関する研究計画概要として「2023 年度は、2024 年度に取りまとめる調査報告の前段階として、2021 コホート1.5年後について追跡調査を実施する。」と記載されていました。(https://www.nistep.go.jp/archives/59298/)しかし、2022年度調査に基づく報告書が理由の示されないまま未公刊となっている一方で、2023年度調査の結果が調査資料356「博士人材追跡調査-第5次報告書-」として公刊されたのは2026年5月29日でした。すなわち、2023年度年報では2024年度に取りまとめる予定とされていましたが、実際の公刊は2026年5月29日となりました。現在未公刊となっている2件の報告書を2026年度中に相次いで公刊するという2025年度年報における予定を楽観視することはできません。
こうした報告書公刊の長期遅延が続く中、科学技術・学術政策研究所は2026年6月22日に「2026年度 博士人材追跡調査」を委託するため、一般競争入札を公告しました。(https://gyo.tc/https://www.nistep.go.jp/archives/63354/)ただし、応札者が現れなかったためか、件名を「2026年度 博士人材追跡調査等」とした入札を改めて7月28日に公告しました。(https://gyo.tc/https://www.nistep.go.jp/archives/63767/)
両公告の仕様書によれば、事業規模の上限は1200万円となっており、次の2つの調査を同時に実施する予定となっています。1つ目は、2024年度に日本の大学院の博士課程を修了した者全員を対象とする、修了1.5年後の調査です。対象者への調査依頼は、各大学院を通じて行われます。2つ目は、2021年度博士課程修了者のうち、2023年度に実施された修了1.5年後調査に回答した者全員を対象とする、修了4.5年後の追跡調査です。
博士人材追跡調査(JD-Pro)は、調査実施に多額の委託費を要し、多数の博士課程修了者や大学関係者に回答・連絡等の負担を求める調査です。調査を実施してデータを収集するだけでなく、その結果を迅速かつ正確な報告書として公刊し、政策形成や社会的検証に利用できる形で、回答者および社会に還元することまでが求められています。
しかし、2022年度調査は報告書が公刊されず、調査資料356は公刊まで長期間を要した上、公刊後にも多数の誤りや不整合、正誤表に記載されていない修正および正誤表の記載とは異なる修正が確認されました。さらに、2024年度を対象とする修士課程等在籍者調査とポストドクター等調査の報告書も未公刊です。この状態で新たな大規模調査を実施するのであれば、少なくとも、未公刊調査の取扱い、報告書の執筆責任者及び監督責任者、数値や記載内容の確認体制をあらかじめ明確にする必要があります。これらの体制を確保できない場合には、調査を実施すること自体を目的化するのではなく、新規調査の延期、規模又は調査周期の見直し、一時休止を含めて検討することも、納税者・大学等における調査協力者・調査回答者の負担に報いる観点から必要であると考えられます。